<概要と症状>
パーソナリティ障害[s1] とは、一般には、本人自身にはあまり自覚はなく、周囲の人を悩ませます。そのため、本人が現実生活上、相当追い詰められて、はじめて問題に気付きます。[s2]
またパーソナリティ障害[s3] にも、いろいろなタイプがあり、この病気をひとくくりにすることは難しいと言えます。
ここでは、性格に極端な偏りがみられ、社会的に問題を引き起こす6つのタイプについて説明します。
①境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)
感情が激しく不安定で、それまで普通にしていたのに、突然怒り出したりします。対人関係もうまくいかず、友達もできにくいと言えます。その一方で、孤独に弱く、常に誰か一緒にいてもらいたがり、他人に見捨てられるのを極端に怖がります。「自分に好意的で、支えてくれそうだ」と思うと、相手の気持ちは考えず、積極的に近寄ります。相手が少しでも冷たい態度をとると執拗に執着し、完全に見捨てられたと思うと、手の平を返したように批判しはじめます。また、気分や感情の波がとても激しく、気に入らないことがあると、壁に頭をぶつける、暴力をふるう、自殺未遂や自傷行為など、他人や自分を傷つける行為をくり返すこともあります。
②妄想性パーソナリティ障害
極度に疑い深く、他人の言葉をすべて自分への批判と捉えるように解釈します。根拠もなく「盗聴されている」と訴える、または他人と目があっただけで「にらまれた」と言うため、周囲は怖くて近づかなくなります。家族に対しても根拠のない恨みや疑いを持ち続け、激しく怒る、暴力を振るうといったトラブルを起こすこともあります。
③統合失調型パーソナリティ障害
「変わり者」と表現されることが多く、よそよそしく感情がないかのように見え、他人にまったく興昧がなく、いつも一人で行動しています。感情や怒りを表すことはほとんどなく、叱られてもほめられても、嬉しいのか悲しいのか分かりません。人と親密な関係を持とうとせず、趣味や仕事に夢中になることもありません。
④自己愛性パーソナリティ障害
自分は他人よりも優れている、他人とは違う、と思い込み、自分の能力を過大評価しています。ほめられたい、尊敬されたいという思いが強く、自分のやったことを「すごいことだ」などと強調して周囲に話します。自分の話に他人も同調してくれると思い込んでいるため、ちょっとした批判や非難にあっても自尊心が強く傷つけられます。その反面で、他人の才能や業績は「たいしたことない」と過小評価し、批判的なのも特徴です。一般には、他人に自分の話はよくしますが、人の話にはほとんど関心を示さない傾向があり、周囲からは「倣慢な人」という印象をもたれがちです。
⑤強迫性パーソナリティ障害
物事すべてにおいて常に、完璧でなければ我慢できず、規則、順序などにこだわり過ぎるあまり、物事がスムーズに進まなくなります。たとえば、本棚に並べる本の順番をきちんと決め、少しでも順序が違うと気に入らないなどです。また、こうした自分のやり方を、家族や同僚・部下に強要することもあります。度を越した完全癖が災いし、人との付き合いがうまくいかない、娯楽や趣味が持てないこともあります。
⑥反社会性パーソナリティ障害
他人に迷惑を掛けることに、何の良心も感じず、社会ルールを無視し、犯罪行動を繰り返します。ささいなことにも怒りやすく、すぐに暴力行為に走る、物を破壊する、平気で嘘をつくなどの行動が見られます。トラブルを起こした自分を常に正当化し、罪の意識はなく、無反省で、刑罰を受けても改めません。15歳頃から、学校や社会のルールを守れない行動が目立ち、動物を虐待するなどの行為が見られることもあります。
②③はA群(奇異型)で[s5] 、精神病的特徴が強い
<ポイント>
[s8] 境界性の人は、[s9] 怒りを家族に対しても治療者に対してもぶつけてきます。ケアをする側は自分が強い気持ちで巻き込まれないように配慮する必要があります。[s10] また自我が弱いという側面があり、家族や治療者に依存してくる、また相手に対して、ある時は理想化して好意[s11] を寄せるかと思うと、ある時は徹底的にやっつけるといった特徴[s12] があるため、周囲の人はそれに巻き込まれ、疲れきってしまいます。一方で患者のほうは、自分の思うようにならないことで怒りが生じます。このような悪循環が繰り返されると治療関係の破たんを招きます。そのため、距離を取り、中立性を保ち、かつ基本的には、柔軟性を持って接し、励まし、助言し、あたたかく包み込むような対応が重要でしょう。[s13] また、自己愛性の人は防衛が強い為、なかなか精神療法を受けようとしない傾向にあります。[s14]
昔から精神科のある病院は、大学病院、総合病院、精神病院など、いわゆる大きな病院でしたが、最近では、メンタル・クリニック(精神科診療所)、心療内科(ストレスが身体症状となって現れる心身症が主な対象の診療科)も増えています。「精神科」と名乗らず「神経科」あるいは「メンタル・クリニック」などと、名称も建物も清潔で明るいイメージで統一されているようです。この他、保健所、精神保健センター、臨床心理士が開業している心理相談室などが利用できます。心の病気を専門に扱う医療機関は以下に示すように、昔に比べかなり幅広く多様になってきています。最近は、精神医学の治療法なども研究され、良い薬も開発されてきているようです。心に不調を感じた時、各医療機関や支援施設の役割を知っていると、選び易くなるでしょう。
<メンタル・クリニック>
医師を含めたスタッフ1~2人の少人数での運営。雰囲気も明るく初めてでも抵抗が少ない。都市部を中心に増加、街中に点在するため心の病気に悩む人にとっては、通院しやすい。
<総合病院>
複数の診療科の中のひとつとして精神科だけでなく、心療内科、精神神経科もある。他の診療科があるため、心の病気以外の治療も同じ場所で併せて受けられる。
<大学病院>
精神科、神経科[s16] 、精神神経科、[s17] 心療内科等複数の精神医学関係の科がある。1~3ヶ月間の入院期間で社会生活に戻る場合に適している。総合病院 と同様、精神医学関係以外に、他の診療科がある。
<精神科病院>
かつては偏見を持たれていたが、治療法の発達や、患者の人権が守られるようになり、明るく開放された病棟が増加。広い敷地の中で、ゆっくり静養しながら治療を受けられる。
<心療内科>